解説
DLC『Echoes of the Eye』のプレイ日記。DLCパート全編のネタバレを含みます。
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このページは『Outer Wilds』とDLC『Echoes of the Eye』のネタバレを含みます。ゲームをクリアしてからご覧ください。
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(公開:2021年10月31日)
目次
プレイ日記目次:はじめに/ 第1回/ 第2回/ 第3回/ 第4回/ 第5回/ 第6回/ 第7回/ 第8回/ 第9回(最終回):その1:その2:その3:その4/おまけ考察/ 挿絵まとめ
20211009(その3): 解錠/ 保管庫の中へ/ 保管庫の中の人/ 保管庫のスライド(完全版)/ 『眼』の残響/ 旅人たちの夢
20211009(20211202)
解錠
- さて…どうしようか。どうすればいいのか。ダイヤル錠のパスコードを入力させる気がないのはもうイヤというほどよく分かった。だけど今日ここまで見てきた夢の世界の仕様スライドリール、あれは絶対になんかのヒントでしょう。死んでいると警報を聞いてもログアウトしなくなるやつが一番分かりやすいが、あれを利用すれば3番目の印のところにあった警報装置は無視できるはず。となると1番目・2番目のダイヤル錠もあれらの情報を利用すればどうにかできるのでは。具体的にどうすべきかはまだ分からんがやってみる価値はある。
- やってみる前に航行記録を確認。
『無傷のスライドには、彼らの故郷の世界を模した模擬現実(simulated reality)を創造する様子が映っている。』
模擬現実! なるほどそう表現するのか。我々プレイヤーは「コンピューター上で作られた仮想の世界」「ヴァーチャルリアリティ」といった概念をすでに知っていますが主人公はおそらくそうではないはずなので(※木の炉辺にもコンピューターがないわけではないので「コンピューターシミュレーション」的な概念はあるとは思うが)、ここまで見てきた『夢の世界』とその正体をどう捉えていたのか地味に気になってたんですけど案外的確な表現だった。プレイ日記の初回で『(※『流れ者』内で)なんか名詞っぽいものが出てきたらそれは主人公がそういうものだと判断してそう呼んでいるのだと思っておく』
とかなんとか書きましたがこれも一応当てはまるだろう。 - じゃあ手始めに死ぬか。構造物の火室で。死にました。地底湖に到着しました。目的のためとはいえ何の抵抗感もなくスッと死を選んだのは冷静に考えると狂気でしかないがもう他に手がないのだ。「死んでもタイムループで無かったことになる」のは本編でも散々攻略に活用してきたわけだが、いよいよ死そのものを攻略に利用することになる日が来るとは。なんてゲームだ。
- まずは3番目の印のところからやってみよう。ここはただ橋を渡るだけだから簡単だ。警報を聞いたツノ人がどこからか押し寄せてこない限りはだが。以前この橋の上を通ったときはあえなく現実に追い返されたが今回は死んでるので問題ありません。あっさりと向こう岸へ到着。干渉装置があったので穴をのぞき込んでみるとその先には保管庫が。
『消す』
のアクションを実行すると保管庫のロックがひとつ消えていた。なるほど。これを3つ分やれと。 - 念の為この段階で変化がないか確かめてみようと思い保管庫の前の舵的なやつを回してみたが特になにもありませんでした。隙間が開いてそこから青緑の光が出て塔のヒントっぽいビジョンが流れるだけ。新しいヒントが出るとかはないのか。
- では次。どうしようかな。そういえばこのエリアではまだ遺物なしモードを試したことがなかった。見えない橋や隠し通路の件を除けばわたしにとって遺物なしモード=ツノ人警戒モードだったから明らかにツノ人の気配のない地底湖で使う発想がなかったのだろう。たぶん。普通に検証が足りなかっただけです。
- じゃあそのへんに遺物を置いて…おお、見えた。1番目の印のところに見えない橋の断片が浮いているのが。もしやと思ってダイヤル錠を操作してみると橋の切れ端のひとつひとつが上下に動いた。うわーなんだこれ。なんか楽しくなってきた。これはいける、行けるぞ。向こう岸に。橋が繋がったので渡ってみる。渡れる。やった。先にあった干渉装置で1番目のロックも解錠。パスコードのことで悩んでいたのは何だったのだというくらいスッキリ解決したな。テンション上がってきた。
- それで…次はどうするんだ。2番目の印のやつは。ここから2番目のルートと思われるところのイカダに遺物の光を当ててみたが当然というかなんというか動かない。あら。どうしよう。いきなり詰まった?こんなところで?
- …と思ったけど、よく考えたらまだ一度も試してないヒントがあったじゃないか。夢の世界でイカダが洞窟の中を通過中に云々ってやつ。ここまでの流れから考えるとあのスライドも絶対関係あるよね。とはいえ地底湖はイカダの周回ルートに含まれていないようなので一度完全に死んでやりなおすしかない。仕方ない。先進的ワープコアを持って『船』に向かう途中でアンコウに食われるよりはマシだ。
- というわけで河川低地のミイラ室で死んできました。桟橋からイカダに乗り込んで、周囲が暗闇になったところでおもむろに後ろに向かって足を踏み外してみる。すると、水に触れることもなく体が暗闇を滑り落ちていった。そのまま音もなくフワーッと落ちていくと、いつのまにか地底湖の上に来ていた。わーバグ技っぽい。そして最後は水面に着水した。こりゃ面白いな。スライドでは落ちた先のことまでは描いてなかったけど、あの不具合に気付いた誰かが落下先をここにしようと思ってそう設定したんだろうか。同じようにイカダから落ちたツノ人はいなかったのかってところは気になるが。
- 着水したところからは徒歩で岸まで行けました。うーんバグ技っぽい。足元を見たときに遺物を置くアクション用メッセージが出たときは流石に試す気にはなれませんでしたが。干渉装置を使うと2番目のロックも解除成功。イカダは保管庫側に戻るために使わせてもらった。本来ならパスコードを入力すればイカダが向こう岸からやってくるような設計だったのかもしれないがそんなことは知らん。
- なんかドキドキしてきた。1番目と3番目のロックもサクッと解錠して、これでついに保管庫の鍵がすべて消えてなくなった。正直言って何のためにこんなことをしているのか今になってもまったく分からないのだが。これ本当に開けて大丈夫なんだろうな。大丈夫じゃないから鍵をかけていたのでは? うーん…開けてから考えよう。
- 保管庫の前の舵的なやつに手をかけて回転させる。保管庫が左右に別れ、人ひとりが通れそうなくらいにまで開いた。中には暗闇しかない、と思ったけどよく見ると奥に通路のようなものがある。中に直接なにか入ってるんじゃないのか。さっきまで出ていたヒント映像の光はどうしたのだ。この暗闇の先に行けと?
保管庫の中へ
- ええいままよ。保管庫の中に足を踏み入れる。暗い。通路を進む。暗い。左右は金属っぽい壁。暗い。途中から階段になっている。暗い。怖い。この階段長いよ!! 怖いよ!! 何があるんだよ!!
- 恐る恐る階段を降りていくと、ふと前方に薄明かりが見えた。やっと終点のようだ。階段を降りきる手前で少し様子を伺う。不審な物音はしないが…床になにか描いてある?
- 意を決して階段の先にあった部屋に入ってみる。これは…ツノ人の望遠鏡? 最初に『眼』の信号を見つけた人が使ってたやつか。レンズが見上げている先には繊細な飾り格子がはまった窓、その外には土星風惑星が見える。ここどこ?
- あらためて部屋を観察してみると…意外とオシャレですね(率直な感想)。窓が高い位置にあるから明かりの差し込み方がなんだかロマンチック。床に見えたものは窓の飾り格子と同じような柄の細工だった。素敵じゃないですか。なんだこの場所は。部屋の奥にはドアがあるけど閉まっている。とりあえず周囲にあったロウソクに火をつけてみたりしていたらドアが急に開いた。うーん?
- ドアの向こう側は狭い小部屋だった。壁にはロウソク、奥には遺物を置く台がある。なんだろう。とりあえず遺物をセットしてみると…小部屋が下降しはじめた。エレベーターだったのか!
- 飾り格子から透けて見える幽かな光が美しい。下の階に到着したようだがなにも起きないので台から遺物を取ってみるとドアが開いた。…奥に青緑色の光が見える。慎重にドアの外に出てみる……大丈夫? なにもない?
- さっと室内を観察してみると、壁際に様々なもの…ベッド(仮)にイスにボードゲームや飲み物のボトルとゴブレット、スキャンとビジョンの杖、弦楽器…などが置かれている。誰か住んでるのかここに。誰かっていうか…奥に誰かいますよね? そっと、そっと忍び寄ってみると…闇の中から手が伸びてきた。ツノ人の手が。
保管庫の中の人
- 暗闇の中から現れたツノ人はこちらに向かって遺物を掲げ、大口を開けて主人公に襲いかか……ると見せかけて途中でちょっとよろめいた。あ、あれ? なんだその煮え切らない襲い方は。気まずいじゃないの。ビックリしてリアルで「ああぁあぁあーーー!!」と変な声が出たのも気まずい。とっさに少し後ずさったから目測を誤ったのか? なんかモジモジし始めちゃったし。悪かったよ。ところであなた、よく見たらツノが片方折れてません? 右側のツノが。…あー!!もしかして前に見て気になってた肖像画の顔を消されてた人か!? な、なぜこんなところに。
- 誰なの?
- 片角の人がいつまでもモジモジしたままなので近付いてみると
『話しかける 囚人』
のアクション用メッセージが。囚人? 囚人さんとおっしゃるの? そんなわけないが。なんで捕まってるんだ。捕まるようなことをしたから顔を消されたのか? 一体なにがあった。話しかけてみるとどこかで聞いたような選択肢が出てきた。量子の月でSolanumさんに会ったときのやつとほとんど同じじゃん。異種族に出会ったらとりあえずこう聞くようにしてるのか?主人公は。そんな機会滅多にないと思うが。 - 言葉が通じるとは思えないが、とりあえず
「あなたは誰?」
と尋ねてみる。片角の人は答えず、遺物の光を上に向けた。真っ暗だった部屋が少し明るくなった。照明を点けてくれたのね。もしかして変な奴が突然やって来たから部屋を暗くして隠れてたの? 悪かったよ。 - なおもこちらを見つめる片角の人。試しにちょっと横に動いてみたら片角の人も歩き始めた。ああ、退いてほしかったのかな。ごめんね。どうするのか見ていると、片角の人は壁にかけてあった杖を手に取った。振り返って部屋の中央付近まで来ると、杖をかざして目を閉じた。作動音のあと、杖から線状の青緑色の光が出てきて片角の人を照らし始めた。反対側にも光が漏れ出している。これは…自分をスキャンしてるのか? 見てほしいものがあるのか。この得体の知れない異邦人に。
保管庫のスライド(完全版)
- 杖から出る光に近付くとまぶたが落ちていった。脳裏に映ったのは保管庫のスライドだった。ツノ人の身に起きた顛末を描いたスライドの第4巻! 一番消失部分が多かったのに禁断の記録保管所でも見られなかったやつだ。まさかこんなところで。
- 最初に映ったのはスヤスヤ眠る片角の人。ほかのツノ人たちが眠る中、こっそりと火室を出ていった。そして左右確認をしてから操作用インターフェースに手をかける。それによって例の妨害装置搭載宇宙船に遮断されていた『宇宙の眼』の信号がふたたび宇宙に放たれた。解放された信号は宇宙の遠くまで広がっていく。しかし片角の人の背後にはいつの間にかいくつもの人影が迫っていた。捕らえられた片角の人は、悲しそうな悔しそうななんとも言えない表情を浮かべたまま保管庫の中に閉じ込められる。構造物の高い壁がそれを覆い隠し、保管庫は無慈悲にも川の中へと沈められていった。『眼』の信号はまたしても遮られ、宇宙には静寂が戻った。
- 映像はここで終わった。そうか…あの中にあったのは、居たのは人だったのか。そうとは知らず現実側の保管庫の上でこんなことして遊んじゃってたけど。……言い訳してもしょうがないけどおれは何も知らなかったんだ。本当にすまん。悪かった。申し訳ない。この通りだ。そういえば丸窓の塔のミイラ室にひとつだけ空きがあったのはこの人の席だったからなんですね。たぶん。状況的に。
- それにしたってツノ人たちは片角の人に対してなぜここまでの仕打ちを。処罰にしたって重すぎる。現実の保管庫はこの場所と違って中に人が暮らせるような空間なんてないでしょう。閉じ込めたあと生かしておくつもりがあったのかどうか極めて怪しい。実質死刑じゃないですかこんなの。
- 思い返してみると、おそらく構造物を上げ下げするためのものだったであろうインターフェースが焼かれていたのもそういうことだったんだろう。そのくせ構造物の中に火室を作ってまで夢の世界にこんなオシャレな牢屋を用意して…やることがちぐはぐだ。「なぜここまで」の理由を考え始めると思い当たるものがないでもないが今書くのはやめておく。また後で。
- 確かにツノ人たちが『眼』の信号を遮断しようとしたことも理解はできるんですよ。わざわざあんなものを作ってまで信号を止めたのは自分たちと同じような目に遭う人たちがこれ以上出ないようにするためという思いもあったのだろう。『眼』に滅ぼされる人、『眼』に惑わされて破滅する人たちが現れないように。
- でも見方を変えてみると、『眼』の信号を辿ってやって来た別種族かなんかが『眼』をどうにかしてくれる可能性もまた別に存在していたはずなんですよね。少なくとも宇宙を旅できるくらいの科学力・技術力を持った種族の中には『眼』をもっと正しく理解できる人たちもいたかもしれない。『眼』の信号を止めるということは、そういった救いの手が差し伸べられる可能性すらも跳ね除けてしまったことになる。もちろん危ない思想の連中がやって来てやばいことに『眼』を悪用しようとする可能性も無くはないけど。
- つまり何が正しかったかなんて誰にも知るすべはないのだ。片角の人がどういうつもりで信号を解放したのかは分からないけど。
- …とかなんとかいうようなことを考えていたら片角の人が杖をこちらに差し出してきた。えっ、わたしもやるんですか。そりゃそうか。言葉が通じないんだもの。こちらだけ「聞く側」ってわけにもいくまい。それにしても便利なものがあったもんだ。ビジョントーチっていうのかこれ。今の使用例からして人の記憶だとかそういうものを他の人にも見せることができる道具ってことは確定か。録画再生も出来るし。関係ないけどこのあとプレイ日記に書いていた「ヴィジョン」の表記を全部「ビジョン」に置き換えました。
ヴじゃなかったのか。 - それではビジョントーチを受け取って…えーと、マウスの右ボタンか。ボタンを押し続けると今度はこちら側に線状の光が出てきた。スキャンされている。目を閉じて光を浴びる片角の人。主人公は一体なにを見せるんだろう? 見せたいものって自分の意思で選べるのかしら。そうじゃないと道具として使えないから思い浮かべたものを映像にしてくれるとかかな。
『眼』の残響
- さて始まった映像は…ツノ人の身に起きた顛末を描いたスライドの巻数表示の枠。第4巻と第1巻の間に、不格好な形の新たな章が出現した。そこから現れたのは…主人公の後ろ姿だった。
- …あれから長い時が経ち、安らかな眠りについたツノ人たちの遺体は徐々にミイラ化していった。『流れ者』にあった植物、ツノ人たちが暮らしていた建物も段々と枯れ朽ちていく。誰もいない宇宙でクローキングフィールドの中にあるものに気付く者がいるはずもなく、更に長い時が過ぎていった。
- しかし、片角の人…囚人が一時解放した『宇宙の眼』の信号はそのときも遠い遠い宇宙へ広がり続け、宇宙のどこかを旅する船のひとつが偶然それを発見した。Nomaiたちの宇宙船だった。
- 信号に興味を持ったNomaiの一族は長距離ワープを試みるが、不運にも闇のイバラのツルの中に『船』が捕らわれてしまう。射出された脱出ポッドのひとつは同じ星系の惑星に不時着した。生き残ったNomaiたちは生活を再建し、『眼』の探索を再開するが…突如現れた彗星の中にあった幽霊物質がそれを阻んだ。Nomaiたちは一瞬で死に絶え、彼らが築いたものもまた朽ち果てていく。
- どれだけの時間が過ぎ去ったのか、幽霊物質も蒸発して消えていった後、遺跡となった元居住地にひとつの小型宇宙船が飛来した。降り立った宇宙飛行士は不思議な文字が書かれた壁の残骸に関心を持ち、それを故郷の村に持ち帰った。壁が博物館に展示されると好奇心旺盛な村の子どもたちがやって来て、古代の人々が書き残したものを興味深そうに眺めるのだった。
- やがて子どもは一人前の宇宙飛行士に成長した。今日は初の単独飛行の日だ。宇宙飛行士がしっかりとヘルメットを被ると探査艇は故郷の星を離れ、宇宙へと旅立っていった。その好奇心の赴くままに。
- そして主人公は…わたしは今ここにいる。
- ツノ人たちの末路、Nomaiたちの歴史、Hearthianの出現、そして…そして…ダメだなにも言葉にならない。あんまり無闇に「泣いた」とかいうと安っぽくなるから本当は書きたくないんだけどいま信じられないくらい泣いてます。ダメだ。胸が詰まる。色々言いたいことはあるが、ありすぎるが、テーマ曲のアレンジは卑怯だろ!!!! Nomaiが出てきた場面でサントラの「The Nomai」のフレーズがちょっと出てきたのもダメ押しだ。メドレーは卑怯だ。
- Nomai。そうだNomaiだ。まさかNomaiの話が出てくると思わなかった。DLCにはNomaiの出番が全然なかったし、特にストーリーに関わらないまま終わるんじゃないかと思ってたから。関係なくなんてなかった。片角の人が信号を解き放ったからこそNomaiたちがこの星系に来たんだから。よく見ると仮面とかの形が明らかにうろ覚えだったのが主人公の記憶っぽさがあって少しだけ笑ってしまったが。毎回ループの終わりに見てるのに!
- これが主人公が片角の人に伝えたかったことなのか。時系列的な説明と自己紹介としては完璧だが。これまでマメに航行記録をつけてきた主人公らしいといえばらしい。
- こうして主人公の話を見終わった片角の人は……咆哮した。おそらくは万感の思いを込めて。もうダメだ。決壊した。おれの顔面が。なんだこれ。こんな表現があるのかよ。意味のある言葉でもない、たったひとつの吠え声でこんなに伝わるものがあるのか。胸を打たれることがあるのか。
- そうだよな、ある意味我々プレイヤーが見てきた『Outer Wilds』の物語を追体験したようなものなんだからな、片角の人は。その物語に自分が関わっていたと知ったのだから。感極まってしまっても無理はない。
- ツノ人たちの旅は犠牲を払っただけの結果に終わった。Nomaiたちはあと一歩というところで理不尽に命を奪われた。Hearthianは宇宙の終わり間際に生まれ、主人公が旅立ったのは宇宙最後の日だった。すべては無駄だったのか? 空しい徒労に過ぎなかったのか? 確かにひとつひとつの出来事だけ見ていけばそうかもしれない。でも片角の人が放った『眼』の信号がこれらの全てに違う意味を与えた。それが良いか悪いかは別として、信号が放たれたことは確実に何かに影響を与えたのだ。その影響、反響は時を経ても消えることはなく、時には共鳴し合いながら今も続いてきた。残響のように。
- 主人公はそのことを伝えたかったのかもしれませんね。私がここに来たのは、あなたがあのとき信号を解放したからなんだと。あなたが解き放ったものを受け継いだ人たちがいたのだと。
旅人たちの夢
- さて…情報交換が終わり、今度は出口に向かって歩き始める片角の人。エレベーターの前で振り返ると少しだけ身を屈め、左手をこちらに差し出した。ビジョントーチを渡してほしいってことかな? そういえば持ったままだった。すみません返します。
- ビジョントーチを受け取った片角の人は丁寧なお辞儀をして、衣装を翻して優雅なターンを決めた。静かに、しかしまっすぐにエレベーターの中へ歩いていき、そのまま上へと昇っていった。呆然とするわたしを置いて。
- もうだめだ。すでに相当この片角の人にやられていたが今のターンでおれの心は完璧に撃ち抜かれた。なんで? 自分でも理由はわからないが迷いのない所作に何かしらの意思の力を感じたのかもしれん。あんた…すげえよ…! こんなに心を動かされたのはSolanumさんと初めて出会ったとき以来だ。完敗だ。なんという軽やかさ。BGMも軽やか。そうだ、そのまま行くがよい。あなたはもう自由だ。
- …と思ったらいつの間にかエレベーターが戻ってきていた。勝手に盛り上がってしまったがなにも誰か一人必ず残らなくちゃあいけないってわけじゃあないんだからそうなるか。完全に頭が混乱している。
- すぐにエレベーターに乗り込む。あの人、どこへ行くんだろう。28万年以上ぶりの外だ。そんなに長い間閉じ込められていて正気を保っていたこと自体が驚嘆に値するな。立場は違えど不可思議な状況で長い時を「生き続けて」きた彼女と同じような精神状態なのかもしれないが。もしかしたらだが。
- 望遠鏡の部屋を通り抜け、階段を上がり、通路を進んで保管庫から出る。誰もいない。あちこち見渡してみるが人影はどこにもない。保管庫の上側にも。向こう岸にも。
- しばし歩き回っていると、イカダの手前あたりに青緑の光を放っているビジョントーチが立ててあるのを発見した…どうやって立ってるんだこれ。それは別にどうでもいいが、他に手がかりもないので早速確認してみる。光に近付くと映像が始まった。
- 映し出されたのはどこかの水辺。朝焼けらしき光が辺りを淡く薄桃色に照らし、空にはあの土星風惑星が白く浮かび上がっている。望遠鏡をイカダに運び込む片角の人。そこに旅支度を済ませた姿の主人公が現れた。片角の人が促すように片手を差し出すと、ふたりは一緒にイカダを押し始めた。ふたりが乗ったイカダが水辺を離れると同時に、昇り始めた恒星から放たれた陽光が旅人たちを包み込んでいった。
- 映像は終わった。これがわたしへのトドメだった。あまりにも美しすぎる。だがそれゆえにこれがすべて夢だと分かってしまう。眠っているときに見る夢ではなく願望、希望の夢。
- これを残したのは間違いなく片角の人だろう。ビジョントーチでお互いの記憶を読み合ったからこそなのか、たったあれだけの時間しか一緒に過ごしていないのに明らかに友情の念が芽生えてますよね。かつてSolanumさんが言ってくれた
「あなたと私の間にはあまりつながりがない。」「それでも、この出会いは特別だって感じてる。私があなたのことを友だちだと思っても、気を悪くしないでほしい。」
という言葉が思い出される。「あなたと一緒に旅に出たい」っていうのはそういうことでしょう。主人公を生粋の旅人と認めたからこそこういうビジョンを残したんじゃないか。 - だけど…あの美しい光景。ツノ人が暮らした衛星。輪のある惑星。朝焼け。宇宙服の主人公。空を飛ぶ不思議な生き物。旅に出る二人。どれも全部は実現しようがないものの組み合わせだ。ツノ人の故郷は壊滅状態で生き物なんかいないし、夢の世界はずっと夜。何十万年も前に生まれた片角の人は現実ではどう考えても亡くなってる。そして旅に出たとして22分過ぎれば太陽は爆発する。言ったところでどうしようもないが、やっぱりこんなの残酷だ。さっき主人公が見せた映像で、片角の人はどこまで理解したんだろう。太陽の寿命が尽きそうなことは? 『眼』の座標を見つけていることは? 映像に映らなかったところは説明を端折ったのか本当に見せていないだけなのか判断できませんが。
- それはともかくやっぱり片角の人はどこにもいない。そもそもこの場所からどこか別のエリアに行くのは不可能だ。ということはつまり……行ってしまったのか。
- 片角の人、囚人さんがいた部屋、牢屋には色々なものが置いてあった。少なくともツノ人の居住地にあったようなものはひととおり揃っていた。望遠鏡だって、きっとあの人にとって大事なものだったからあそこに置かれていたんだろう。現実でのあれだけの扱いに対して意外にも夢の世界での待遇は悪くないようにすら見える。それでもひとつだけあの場所に欠けていたものがある。水だ。
- ツノ人は宇宙船の内部にすら川を再現するほど水を愛する種族ですよね。丸窓の建物の中にある絵にも水辺で思い思いに過ごす彼らの姿が描かれていた。夢の世界、模擬現実にも当たり前のようにすべてのエリアに水がある。それほどまでに彼らが愛した水から引き離すということは、それが彼らにとっての罰だったからなんじゃないか。単に囚人さんを「ログアウト」させたくなかったからかもしれないけど、自分で自分の遺物の火を吹き消す方法(※出来るかは不明)は封じられてないみたいだからね。
- そんな状況だった囚人さんが、今までずっと数十万年も閉じ込められていた人が水を目にしたら…全部想像ですよ。想像しかできない。
- ここまで考えて、そういえば探していないところがあるのを思い出した。火室をまだ見ていない。一応行ってみよう。火室へ行くエレベーターに乗り込み、青緑色の火を見たところで、火が消えるような音がした。
- そして目が覚めた。何事もなかったかのように。すべて夢だったかのように。
- …この終わり方を演出するために最後の謎解きに死のギミックを組み込んだとするなら、それを考えた人は本当に天才だと思いました。なんて洒落たオチだ。完敗だ。
- 終わったんだよね? これで。
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